原状回復の費用負担 — 国土交通省ガイドラインの考え方と具体例
退去時の「原状回復」は、借りたときの状態(新品)に戻すことではありません。国土交通省のガイドライン(再改訂版)は、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。
基本:経年変化と通常損耗は貸主の負担
年月がたって自然に傷んだもの(経年変化)や普通に暮らしていて生じる傷み(通常損耗)は、ガイドラインでは賃料に含まれる部分とされ、借主の原状回復の対象ではありません。
具体例(ガイドライン別表1から抜粋)
| 状態 | 貸主負担の例(通常損耗など) | 借主負担の例(故意・過失など) |
|---|---|---|
| 床 | 家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡 | 引越作業等で生じた引っかきキズ |
| 壁 | テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ) | 結露を放置したことにより拡大したカビ・シミ |
| 壁の穴 | ポスターやカレンダーの掲示に使った画鋲・ピン等の穴 | 重量物をかけるためのくぎ穴・ネジ穴(下地ボードの張替えが必要な程度) |
| 変色・におい | 日照などによる壁紙・畳の変色 | タバコ等のヤニ・臭い |
| キッチン | — | 日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ |
| 鍵 | 鍵の取替え(破損・鍵紛失のない場合) | 鍵の紛失・破損による取替え |
| 清掃 | 専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常の清掃をしている場合) | 通常の清掃をしていない場合の清掃費用 |
ガイドライン別表1の「通常、一般的な例示」から抜粋。実際の判断は契約内容と物件の状態によります。
年数がたつほど借主の負担割合は小さくなる
壁紙(クロス)・カーペット・クッションフロアは、6年で残存価値1円となるように負担割合を計算するのがガイドラインの考え方です。
畳表・襖紙・障子紙は消耗品として経過年数を考慮しません。鍵の紛失による交換も経過年数は考慮せず、交換費用相当分が借主負担とされています。
ただし年数を超えた設備でも、故意・過失で壊した場合などは、修繕の工事費用(例:落書きを消す費用)の負担を求められることがあります。
負担の範囲(どこまで直すか)
壁紙は㎡単位が望ましいとされ、借主が傷をつけた箇所を含む一面分までは張替え費用を借主負担としてもやむをえないとされています。喫煙で部屋全体が変色・臭いがついた場合に限り部屋全体が対象です。
フローリングは原則㎡単位、畳は原則1枚単位です。
契約書の特約があるとき
通常損耗の修繕まで借主に負担させる特約は、①必要性があり暴利的でないなど客観的・合理的な理由がある、②借主が通常の原状回復義務を超える負担を認識している、③借主がその負担について意思表示をしている、という要件を満たさないと効力を争われることがある、とガイドラインは説明しています。
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よくある質問
ポスターやカレンダーの掲示のための画鋲・ピンの穴は、ガイドラインでは通常の損耗(貸主負担)の例です。重量物用のくぎ穴・ネジ穴で下地ボードの張替えが必要な程度のものは借主負担の例です。
ガイドラインの計算では壁紙の価値は6年で1円まで下がり、借主の負担割合はごく小さくなります。ただし故意・過失による毀損では、工事費用などの負担を求められることがあります。
ガイドラインは一般的な基準を示したものです。個別の契約(特約)や実際の状態で判断は変わります。困ったときは消費者ホットライン「188」に相談できます。
関連ガイド
出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」第1章(平成23年8月)
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